2017年11月17日金曜日

米中、もし戦わば






 ピーター・ナヴァロの「米中もし戦わば」を読みました。昨年の11月30日に発行された本で、その時点で、この本の結論では、米中開戦の確率は70%でした。それは、既存の大国に新興国が台頭してきた場合の戦争の確率です。
 その後、トランプ大統領の誕生で、確率は激減、北朝鮮のミサイルと習近平国家主席の権力の確率で、確率は再び上昇、今は、70%以上かなと、私は思います。そのような高い確率で米中戦争が起きるとしたら、「どのように防げるか」が、この本のテーマです。

 翻訳した飯田将史は、大戦後初めて強力な軍隊を持った国が覇権を現わして来たことに自衛隊も対応し、2000年以降、対ソ連のための北海道重視の配置だったものを南西地域重視の配置に変えて来た、と言います。
 決定的事件は、2008年の12月に中国の政府公船が尖閣の領海に侵入した時でした。その後、民主党政権(2009-2012)になって、「尖閣諸島中国船衝突事件」(2010.9.7)が起きます。それは、中国のアジアの侵略の動きの一部にすぎませんでした。

 1996年、中国は台湾の総統選挙で李登輝が選ばれるのを防ぐために、台湾近海に弾道ミサイルを撃ち込みますが、アメリカが空母を出して来たために、刀を鞘に納めます。しかし、それ以後、「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイルの開発を進めます。この安価な非対称兵器は、高価な空母を沈められるので、アメリカ軍の脅威となっています。
 中国は鄧小平の重商主義が行われて後、急激に成長し、人口が著しく増えました。そのため、フィリピン、ベトナムの島々を奪い、自国の海域を広め、商業のための海路を確保し始めました。まず、「これはもともと中国領だ」と地図を書き換え、漁民船を送り込んで、「サラミ戦術」と呼ばれる、少しずつ相手の領海を切り取る作戦で、領海を拡大させて来たのです。

 1985年以降、尖閣諸島は日本の領土でしたが、1960年代に大量の石油、天然ガスが眠っているという国連の調査を受けて、「ここは中国の領土だ」と中国は言い始めました。2010年の尖閣諸島中国船衝突事件は、中国全土を巻き込んだ「反日運動」となって、100都市以上に広がり、同盟国アメリカを巻き込んだ戦争になるのではないか、とアジア諸国を不安に陥れました。
 日本の自衛隊は、中国機の活動が活発化し、スクランブル(緊急)発信が増えると、福岡の築城(ついき)基地のF15戦闘機を沖縄に移転し、潜水艦も16から22隻に増やして、情報収集と偵察監視を向上させ、イージス艦を改修して弾道ミサイルの迎撃に備えました。空自の司令部も、2012年以降、横田の米軍に移転し、陸自も在間の米軍キャンプに移し、日米共同で対応しようとしています。

 中国は、「私たちは平和的な台頭を望んでいるだけだ」と言い、オバマ大統領は諸手を挙げて賛同したのでした。しかし、中国を信頼したアメリカは、何度も裏切られる経験をします。結論として、「中国は悪意をもって嘘をつく」と気づき始めています。それは、今も韓国の大統領、北朝鮮の独裁者にも言えることで、合意や条約締結が意味をなさないのです。
 「中国がアメリカを犠牲にして台頭することを阻止しなければならない」―アメリカは、その姿勢になっています。 オバマ大統領は、「アメリカは世界の警察官ではない」と言い、そのために無秩序な群雄割拠の世界を作ってしまいました。テロが横行し、中国が台頭し、北朝鮮が暴れ、それぞれの国が、「警察がいないのなら、自分が強くなるしかない」と動き始めたのです。

 オバマはフィリピンに酷いことをしました。中国がスカボロー礁に2012年に侵入し、奪おうとします。中国領と認めなければ、フィリピンの製品を輸入せず、中国人の旅行者をフィリピンに送らないと脅してきました。アメリカが間に入って、スカボロー礁から中国漁船もフィリピンの警備船も撤退するように命じ、フィリピンは撤退しましたが、中国船は居残って、実質上、中国領にしたのです。
 オバマは中国の横暴に何も言えませんでした。アメリカは弱いと思われていました。1988年には、ベトナムから、「南沙諸島は中国固有の領土」と言って、ベトナム国旗を掲げて侵略に抗議するベトナム兵、60人以上を虐殺し、ケナン礁、ヒューズ礁など6島を実効支配していました。その後、1994年には、モンスーンの時期を狙って、中国海軍が入り込み、建物を建てて、フィリピンのシスチーフ礁を奪いました。このためフィリピン軍は中国軍を恐れており、アメリカは無力でした。

 中国の立場に立てば、1939年のアヘン戦争から始まって、中国はフランス、イギリス、日本、ロシア、アメリカによって侵略されて来ました。それまでは、中国はアジアの宗主国で、朝鮮も台湾も沖縄も、中国に貢ぐ国でした。この「屈辱の100年間」を中国は忘れたことはなく、その中でも、日清戦争と満州事変を行い、朝鮮と台湾の主権を奪った日本を恨んできました。
 1949年に、中国は新しく建国されました。68年の歴史を持つ共産党の独裁国家です。その時点で、中国は後進的な農業国でした。貧しいけれども、自国ですべて賄える国でした。しかし、共産主義は失敗し、数千万の国民を死なせ、さらに文化大革命で反乱分子を数千万殺し、国土が疲弊した中で、鄧小平が経済的な革命である「第2の革命」を行います。重商主義国家となりました。
 
 商業ルートを確保するために、中国は同盟国を次々に裏切っていきます。1979年に、ソ連と同盟を結ぶベトナムを、「ソ連は中国の敵だから」という理由で侵攻し、中越戦争がはじまります。中国は6万人の戦死者を出し、失敗に終わります。その後、先ほど見た南沙諸島をベトナムから奪い、同盟国のフィリピンからも領海を奪い、日中友好にあるはずの尖閣に手を付けたのです。
 中国が同盟関係にある国を攻撃することは、1950年の朝鮮戦争で国連軍を奇襲攻撃し、数千のアメリカ・韓国兵を殺したことに始まり、南ベトナムのフランス軍を駆逐して北ベトナムを支援したこと、1952年にインドに侵攻し、インド領のアルナーチャルプラデーシュ州を自国領の南チベットであると主張し、1962年には、同盟国のソ連に奇襲攻撃をかけ、ソ連は「もう少しで中国に原爆を落とすところだった」と怒りをあらわにしました。同盟国を攻撃するのが中国なのです。

 アメリカは中国を甘く見ていました。ニクソン大統領とキッシンジャー補佐官は、「敵の敵は友」の原則通りに、ソ連の敵である中国と組むことで、ソ連の力を弱体化できると考え、1972年に中国とピンポン外交を始めました。そうすれば、北ベトナムをパリ講和会議に出席するよう説得してもらえ、ベトナム戦争も終結できると考えていました。2年後に、中国は弱体化していた南ベトナムから西沙諸島を奪い、その一年後にベトナム戦争は終結しました。
 周恩来は、その見返りに、経済制裁を解除し、世界経済に参入させるようアメリカに求めました。そして、WTO(世界貿易機関)に中国が加盟するようになります。ビル・クリントンは、「中国を受け入れれば、世界人口の五分の一を擁する国がアメリカの市場として開かれるのだ。アメリカ製品が中国で販売できる。」と議会で演説し、加盟を許しました。とんでもない判断でした。

 2001年に中国がWTOに加盟すると、アメリカの大企業は生産拠点を安価な労働力の得られる中国に移し、そのためアメリカの七万の工場が閉鎖に追い込まれました。失業者、非正規雇用の労働者は2500万人にまでなりました。アメリカの対中貿易赤字は、年間3000億ドルに達し、今では、数兆ドルに達しています。アメリカは中国に呑まれてしまいました。
 それでも、アメリカは「中国に門戸を開けば、中国は民主化するだろう」と甘い考えを持っていました。しかし、中国は自国を富ませ、アメリカを貧困の中に追い落としただけでした。中国は、鄧小平の重商主義以降、輸出を保護し、国内市場を外国に閉ざす方針を続けてきました。そして、30年間、毎年、10%成長を続けてきた国です。かつての農業国は、「世界の工場」となって、アメリカを抜いて世界一の経済大国となったのでした。

  民主主義のアメリカは貧乏な「かつての大国」となり、独裁主義の中国は豊かな「これからの大国」となった時に、アメリカ国民は能無しの指導者たちに任せておれないと、もう一度、強い、豊かなアメリカをと、トランプ大統領に望みをかけたのでした。中国に民主化は起きません。異議を申し立てる者は、「労働改造所」と呼ばれる強制収容所で殺されるのです。サイバーコップ軍団がインターネットを監視し、取り締まるだけでなく、プロパガンダとして利用しています。
 その立ち上がる竜、中国が、傷だらけの大国アメリカに対峙しています。 トランプ氏は、「マッドマンセオリー」で挑んでいます。これは、ニクソンがパリ会議の時に側近に、「戦争を終わらせるためなら、ニクソンはどんなことでもやりかねない男だと信じさせてくれ。『お願いだ。ニクソンが共産主義嫌いだと分かっているだろう。怒り出すと手が付けられない。核のボタンを押しかねない男なんだ。』と口を滑らせればいいんだ」と頼み込み、怒った顔で会議に臨んだやり方です。

 相手は、「公然と約束を破る国」中国です。「話し合い」だけで済む相手ではなく、先の二つの大戦が、「互いに協力しよう」という善意が誤解されて始まった戦争だ、ということを知る必要があります。アメリカは、カードをすべて相手に見せて交渉する「透明性」を大事にしますが、中国は、自分のカードを隠しておくことで、相手をやっつける「不透明性」を大事にします。そして、この「不透明性」のために、アメリカは身動きができない状態にあります。
 対峙しているのは、凶暴な大国中国と、凶暴だった大国アメリカです。アメリカも、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク侵攻、ボスニア、カンボジア、リビア、セルビア、シリヤの空爆を行い、コソボで体制を変え、パキスタン、ソマリやで無人機攻撃を行い、ジブチ、エルトリア、エチオピア、ジョージア、ケニア、イエメンに戦闘部隊を送り込みました。中国とアメリカの対峙は、アッシリヤとバビロンの対峙のような、独裁主義と民主主義の違いはありますが、凶暴な国の対峙です。

 衰えつつあるアメリカは、この戦いに乗り気ではありません。アジアからの徹底を多くの国民が望んでいます。「もうたくさんだ。世界中に、アメリカの私たちよりも豊かな国はたくさんあるじゃないか。近所に無法者がいるからって、どうしてアメリカが守ってやらなきゃいけないんだ。彼らは十分に豊かだ。自分のことは自分で守ったらいいんだ。」
アメリカはモンロー主義の国、独立、いや、孤立を望む国なのです。二つの大戦は、アメリカを戦勝国にして、その後の世界秩序の責任者のようにしてしまいました。警察官として行動していく中で、ベトナム戦争以後は、何もかもうまく行かず、戦争はアメリカの経済をひどく衰えさせました。多くのアメリカ人は、アジアのことに関心もないし、かかわりたくもないのです。

 けれども、警察官をやめられない、大きな理由があります。北朝鮮の核はアメリカの西海岸を狙っています。中国は、ハワイで領海を二分すればよいと言いますが、ほんとうに「アメリカと中国の二大大国による世界」で満足するでしょうか。何をするかわからない、約束を守らない国です。そして、今まで、アジアの平和と繁栄は、アメリカの存在で守ってきたのです。
 日本は、アメリカが手を引いて、核の傘を外せば、サムライの国ですから、むざむざ中国に虐殺される道を選ばないでしょう。一日あれば、核兵器を製造できる技術を持った国です。北朝鮮、中国に核兵器で対抗するに違いありません。今中国は、アジアで紛争が起きた時に、アメリカが駆け付けられないとタカをくくっています。核戦争の危機があります。また、核を持った国同士は、核戦争以上に、通常戦争を行う可能性が高いのです。

 中国が約束を守らない国であり、悪意を持った国であることが分かっている以上、アジアの危機を見過ごすことは、アメリカの危機を招くことになります。戦争の危機を防ぐ方法は、「力による平和」以外、いかなる選択肢も残されていません。アジアの緊張が高まっているのは、文化的な行き違いや、中国の意向の誤解や、戦略上のミスではありません。中国は、覇権を追求し、領土を求めています。アメリカが孤立主義をとれば、紛争は悪化するだけです。
 中国は、ソフトパワー、ハードパワー、両面からの「総合国力」をつけようとしています。アメリカも、総合国力を身につけなければ、中国の侵略に全く無防備になってしまいます。それは、「強い経済」「質の高い技術者」「正常に機能する政治体制」を持つことです。その上で、狼が戸口に迫っているときには、「強い軍事力」が最後の砦となります。

 アメリカが「戦争を防ぐ」ためには、「強力な軍隊」と「強力な同盟関係」によって、敵国に対して、「アメリカは本気だ、最後の手段として、実際に武器を取るだろう」と、相手に信じさせることが大事です。アジアの国々は、オバマの失態によって、「アメリカにはルールを守られる力がない」と感じています。だから、「自分でルールを作るしかない」と思っています。けれども、「なぜ、アメリカは助けてくれないのだ」とも思っています。アジアが中国に呑まれれば、次はアメリカなのです。
 私たちは、中国製品を買うごとに、中国の軍事力を増強させているのです。アメリカは、巨額の貿易赤字を抱えており、資源も、技術も、中国に盗まれているのです。中国は、「互いに栄える」ことは考えない国です。アメリカを攻撃するための武器を作らせるようなことはもうやめましょう。中国製品は、何も買わないことです。日本でも、中国製品があふれかえっていて、「中国製品しかないから」と買う人が多いのです。これは戦争なのです。中国製品は買わない。

 税制を変える必要があります。あまりに法人税が高いので、アメリカの製造業はどんどん海外に流出しています。アメリカに企業を戻し、雇用を戻すようにすべきで、そのためには税制を変える必要があります。また、機密がどんどん中国に盗まれていて、軍用と民間の知的財産権が保護されていません。日本は特定秘密保護法案を作りましたが、中国に技術を盗ませるような真似はさせないことです。教育制度も改革し、奨学金という負担を負わせずに、将来の技術者を育てることです。
 経済の健全化を早急にしなければ、中国に対抗などできません。敵に侵食されないためには、アメリカ本国をまずきちんとしておくことです。宇宙計画ももう一度軌道に乗せるべきです。アメリカは、宇宙を中国に奪われていて、アメリカの衛星を撃ち落とされれば、中国の攻撃を防ぐことはできません。第五世代のF35攻撃機を増産し、長距離爆撃ができる体制を整えることです。ただし、「これらの兵器を製造することは、これらを使用するためではない」のです。「あなたが戦力を増大させるなら、こちらも同じようにする」という原則を見せることが大事です。

 「弱さ」というのは、いつも「侵略」のために招待状となります。弱いアメリカは、同盟国を守れないアメリカです。誰も信頼してくれないでしょう。強いアメリカは、同盟国を守るアメリカです。紛争を抑止できる可能性がはるかに高まります。30万の兵士をアジアに派遣しているのです。「アメリカに見捨てられた」と、アジアの人々に思わせてはなりません。軍隊を常駐させているだけではだめです。「あなたを守ります」という姿勢を見せることです。
 アメリカ国内に、「中国はアジアの安全保障にとって大きな脅威になる」という政治的な合意が必要です。アップル、ボーイング、キャタピラー、ゼネラルモーターズ、IBMなどが、中国に生産拠点を移し、アメリカ市場に輸出をして、大儲けをしています。彼らはロビイストを雇って、「中国は脅威ではない」と主張しています。アメリカのメディアは、中国に取材を許してもらうために、中国の圧力に屈しています。このような不健全な状態を、まず健全にしなければなりません。

 1991年にソ連が崩壊し、アメリカが世界の警察官となって、海のパックスアメリカーナ、「アメリカの平和」を築きました。すべての国が、国際海上通商路を自由に航行できるようになりました。その航路は、アメリカの艦隊がパトロールしています。中国も、この自由航路を用いて繁栄を築いてきました。その中国が、独自のルートを作って、「中国の平和」を築こうとしています。それは、ほんとうの平和につながるのでしょうか。GDPの半分が貿易関係に依存する中国が、まず狙っているのは制海権です。日本の制海権も、最近は中国の侵入が激しくなっています。









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